仕事中、ふとスマホをみたら別役実の訃報が目に入ってしまった。ぼくは別役実の書く文章が大好きだった。体調が良くないという噂は何年も前から耳にしていて、この日が来るのをずっと恐れていた。が、今日は突然やってきた。
とりあえずこの機に自分と別役実について書き残しておく。
別役実を別役実だと認識していなかった頃
たぶん最初は小学生のころになる。学校だったのか塾だったのかわからないが、国語の問題でひどく美しい文章に出会った。『空中ブランコ乗りのキキ』だ。小学校の国語で読んだものなんか全くおぼえていないんだけど、これがひどく美しい物語だったことはおぼえていた。

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次に出会っていたのは高校の頃だった。頭のおかしい国語教師がいて、ペラっと印刷されたエッセイを配った。中身は成人式で騒いでいる若者はおかしくて、陰毛が生えているか確認する式にすればみんな隠れてコソコソするはずだ、みたいなメチャクチャな文章だった。『満ち足りた人生』に収録されている「成人」の項目だった。
別役実を認識してから
大学に入ってたしか1回生の夏頃、Amazonで古本を買うのにハマっていた。その中でふらっとよくわからず買ったのが『日々の暮らし方』だった。これにむちゃくちゃハマった。こんな本に、というような内容かもしれないが影響を受けた。この本がなかったら今の僕は今の僕ではなかった。僕にとってのバイブルと言っていい。

- 作者:別役 実
- メディア: 新書
それで別役実のエッセイをいろいろと買い漁った。全部とはいかないが『づくし』シリーズは概ね買ったし、『満ち足りた人生』も買った。そこで全てがつながった。あのときいかれた国語教師が配ったのは別役実だった。

- 作者:別役実
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もっと別役実にハマった。『ベケットといじめ』みたいな評論も読んだし、『コント教室』も読んだ。小説も読んでみた。そこで気づいた。昔読んだあの美しい文章は別役実だった。馬鹿な。こんなふざけたエッセイばかり書いている人間があんな美しいものを書けるのか。
そこまできて、ぼくはこの人の文章が心底好きなのだなと気づいた。
別役仲間
生きているとごくごく稀に別役実のエッセイのファンに出くわす。いままでに2人出会っている。ひとりは大学の後輩で、僕が東京に住んでいて、彼が京都にいたころ、『日々の暮らし方』の演劇が池袋で上演されるという話がでた。意味がわからない。別役実は劇作家だが、あれはエッセイであって関係がない。チラシを見るに、『日々の暮らし方』が原案になっているだけであってそれ以上でも以下でもないらしい。ハズレの予感がプンプンしていたが、外れてもいいから見に行こうと彼を呼び出して一緒に見た。「おもしろくなかったらチケット代はぼくが」と言っていたので、やはりチケット代は僕が払うことになった。
もうひとりに出会ったのは最近のこと。これは別に日記を書いている。
とにかく別役実が亡くなってしまった。別役実がいない世界になってしまった。別に知人でもないし会ったこともないしこれから20年存命でも会う機会もなかっただろう。しかしそういうことになってしまった。そういう世界でぼくはまだまだ生きていかないといけないし、別役実の影響は消えない。
ご冥福をお祈りします。

- 作者:別役 実
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