今年、とてもいい小説に出会っている。『熊本くんの本棚』だ。

- 作者:キタハラ
- 発売日: 2019/12/13
- メディア: 単行本
もともとカクヨムで書かれていて、第4回カクヨムWEB小説コンテスト*1のキャラクター文芸部門の大賞受賞作品だ。
WEB版で2,3話読んで鳥肌が立った。これはやばい。10話まで読んで、いったん落ち着こうと思って閉じた。まず第一にこれ、キャラ文じゃなくて純文では?文芸誌に載ってそうだけどWEB小説にこんなのあるの?しかもカクヨムコン大賞???意味がわからない。
顔よし、体よし、性格よし。そのうえ読書家。なんだか現実味のないイケメン、熊本くん。仲のよい大学生・みのりは、同級生から彼の噂を聞く。どうやら熊本くんが、ゲイ向けアダルトビデオに出ているというのだ――。
あらすじを読むだけでも不穏だし不快そうだ。本のコピーにも「気持ち悪くて、愛おしい」とある。こういうパターンはだいたい盛っていて、実際読んでみると何が気持ち悪いのかさっぱりだったりする。しかし『熊本くんの本棚』はそうじゃなかった。というかこのあらすじは過小報告だ。数話まで読むだけで、この本がもっと不穏で不快なものを孕んでいるのがわかる。
しかしそれでいてページをめくる手を止められない。読ませる力が強いし、不快の先にあるものがさらなる不快なのか、救いなのか、気になって止められない。なんとなく吉村萬壱の『ハリガネムシ』を思い出す。
これ以上読むともう止まらんと思ったので、理性で止めてAmazonで書籍版を注文した。小説はほとんどKindleでしか買わないようになっていたが、これは紙で買わないといけない気がした。
届いた書籍を読む。もう止めがたい。しかし読んでいるとまた新たな印象が芽生えてくる。WEB小説らしからぬ純文だと思っていたが、実はWEB小説らしい部分がある。くどくどと堂々巡りをするタイプのものではなく、謎解き的な楽しさもある。つまり純文っぽいのにWEB小説的なエンタメでも同時にある。純文を書いてもエンタメがにじみ出てしまうタイプなのか、エンタメを書いているつもりなのに根の純文がでてきてしまうタイプなのか、判然としない。前者のイメージは町田康で、後者は舞城王太郎というイメージ。

- 作者:町田 康
- 発売日: 2002/05/10
- メディア: 文庫

- 作者:王太郎, 舞城
- 発売日: 2005/04/24
- メディア: 文庫
とかくぼくはWEB小説発のエンタメと純文の間にあるなにかである『熊本くんの本棚』に魅せられてしまい、作者のキタハラさんのファンになった。
そうこうしている間に、ぼくも自分の本『転生したらスプレッドシートだった件』が発売された。すると感動的なことがあった。
ついに我が家に令和の奇書(めちゃ褒めてる、絶賛に近い)、ミネムラコーヒー先生の『転生したらスプレッドシートだった件』が届いた〜!!! pic.twitter.com/TIaNmIsbV3
— キタハラ@「京都東山お悩み相談人力車」11月発売! (@kitahararirure) 2020年6月23日
『転生したらスプレッドシートだった件』一気に読んでしまった。
— キタハラ@「京都東山お悩み相談人力車」11月発売! (@kitahararirure) 2020年6月23日
なんてこった。転スプ出してよかったよ。キタハラさん、推しとか言ってるけど、遠からず文学賞に名前が出てくる人だと思っているし、ノミネートされない文学賞はセンスが無いと思っている(いかにも推しの発言である)。そういう人に読まれるのは僥倖としかいいようがない。
いやー、よかったなー、と思って暮らしていたら更にいいことがあった。TwitterでDMがやってきて、「サインくれないか」と。いやいやいやいやいや、逆だろ!!!サイン!!!くれ!!!!
鞄に『熊本くんの本棚』いれて会いに行った*2。ビールを1杯、といいつつ2杯飲みながらお互いの小説のことをあれこれ喋って、最後にサイン会(?)をした。ぼくは本にサインというものをいまだしていなかったので「手本見せてください」と先にもらって、その後緊張しながら人生初の自著にサインと言う行為を、なぜか自分の推しの作家に向けてすることになった。
小説を出すと、推しの作家と作家仲間としてビールを飲むことができて、サインを貰える。そういういいことがあるので、みんな小説書くと良いと思います。
キタハラさん、新作長編執筆中らしいのでとても期待。『熊本くんの本棚』は絶対買ったほうがいい。

- 作者:キタハラ
- 発売日: 2019/12/13
- メディア: 単行本