最初の1ページを読んで「あれ?」と思う。マンガ好きでその割引のために本屋に勤めるどことなくダサい主人公が友達と今風に喋っている。
キタハラ作品はだいたいキャラクター文芸を装った私小説だと思っていて、マンガよりも20世紀文学を片手にしていて、ハイブランド好きで交友関係はやや性的。そういう感じが一切見えない。
しかし少し読み進むと、どうもそれらしい雰囲気の人間が現れて、それがあれだとわかる。1章読み進むと書店の別の同僚に視点が切り替わるが、やはり書店遅番で大学生に混じってアルバイトする謎の30代店員庄野が中心だとわかる。
庄野は歳食った書店アルバイトという属性以外も怪しさが満載で、同僚の学生たちによくわからない質問や訓示を垂れたりしつつ朴訥としていて取り憑く島がなく、古風で文学趣味の割には体を鍛えていたりする節があり、なぜか金を持っているような気もするがそうでもない気もする。
こういう怪しい人間をその周辺の人物の視点で描いていくジャンルをなんというのかわからないが、奥田英朗の『イン・ザ・プール』を読んだ感覚を思い出す。性格と人格を始め全てがねじ曲がった精神科医を患者視点で描いていくアレ。
読み終わって今思っているのは書店のアルバイトがしたかったな。今とは言わないが、どっかでやってもいいんじゃないかなということ。
ぼくは『遅番にやらせとけ』の舞台爽快堂書店みたいな温かみのある本屋には人生で縁がない。地元豊中にいた頃は、阪急駅構内にある狭いブックファーストが普段使いで、まれに梅田に行くぐらい。
大学に入ると生協が手近になる一方、Amazonで古本を買い漁ったりするようになる。
仕事を始めると、一番お世話になったのは家からも歩いていけた池袋のジュンク堂で、Amazonを除けばここで一番本を買ったと思う。
本屋のバイトというのは明らかに楽しそうだ。なんせ本屋でうろうろしているのはほとんど全く飽きない暇潰しで、棚を整理していようがレジにいようが常に本が手元にあり続ける。
本屋は結構重労働なので厳しいと聞くが、最近は育児で重いものを持つのに慣れてきたのでいける気がする。時間ができたら1年ぐらい土曜日にでも働いてみたい。それ以上にやりたいバイトなんかあるだろうか?
そう読み終わってから思っているので書店業界は店員採用のためにこの本をプッシュするのが良いと思う。