ミネムラ珈琲ブログ

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町内の空き家が目について、日本の住宅問題のコッテリした本を読んだ

昨年末に戸建てを買って住んでいる。建売だが、自分で注文住宅作るとこれを得られはしないだろうなという良さがあり満足している。

近隣は下町っぽい風情があって、静かで良い。うちを含めて半数ぐらいはわりと新しく建て変わっているが、半数はけっこうな築年数。買ったときに聞いた地域の建築基準に照らすと、まるっきり建て替えるというのも厳しそうだなとか思ってみている。かくいう我が家も、もともと3軒あった土地を不動産業者が買い上げて、2区画にされたものだ。

そんな感じで暮らしていると、同じ町内の家が空き家になって売出し中になっているのに気づいた。物件情報見たわけではないが、外観だけみていると、そのまま住むには古そうだが、その家単独で建て替えもできないんじゃないかという雰囲気。とはいえ地価はあるので、果たして買う人いるんだろうか。もしくはうちと同じように都合よく近隣とまるめて整理されるようなことがあるのだろうか。

別に10年後この家を売っていくらだとかそういうことを考えなかったとしても、地域に住む上で周囲の状況というのは非常に気になるところだ。そういうわけで、ちょっと勉強してみるかと思ってそれらしい本を買った。

以下のような章立てで日本の住宅土地問題を経済学視点で概観する本。

  • 序章 少子高齢化・人口減少時代の住宅土地問題とは何ですか?
  • 第1部 誰もが安心して生活を送るために考えなければならない住宅土地問題
    • 第1章 自然災害による被害を防ぐにはどんな手段があるのでしょうか?
    • 第2章 空き家・空き地はどうして存在するの?
    • 第3章 誰もが豊かな住宅に住めるようにするためにはどうすればいいのですか?
  • 第2部 豊かな生活を支える生産性を向上させるために考えなければならない住宅土地問題
    • 第4章 なぜ、人は集まりたがるのですか? どうして混雑が発生するの?
    • 第5章 都市の構造はどのようにして決まるのですか?
    • 第6章 東京に人口が集まると、日本の人口が減る?
  • 第3部 地域の持続性を支えるために考えなければならない住宅土地問題
    • 第7章 コンパクトシティって何ですか?
    • 第8章 どうして相続税が空き家を増やすのですか?
    • 第9章 どんどん進む高齢化にどう対応すればいいの?
  • 第4部 ライフスタイル、ライフステージに合った快適な生活を支えるために考えなければならない住宅土地問題
    • 第10章 持ち家と借家は結局どちらが得なのですか?
    • 第11章 既存住宅の価格は安いのに、誰も買わないのですか?
    • 第12章 マンションは買って大丈夫ですか?

経済学の学部生のゼミとかで輪読されそうなレベル感だが、一方で20歳前後で読んでも、当事者的な実感が薄くて楽しめなさそうでもある。

その点、東京(近県を含む)と京都で学生向けマンション、近隣の大きな地主所有の古めなアパート、1LDKの築浅分譲賃貸、メタボ岡崎などなど様々な賃貸住宅に移り住んで、いまは戸建てに住むぼくとしては、自分のこれまでの住宅事情と照らしても非常に興味深く読むことができた。

例えば日本の賃貸市場には、良質なファミリー向けの物件があまり存在しないことについて。この本では日本の相続税制がこの状況の一因になっていることが示されていた。

  • 日本の相続税において、賃貸住宅を所持することが非常に有利になっている
    • 金融資産と比べて、賃貸住宅はその税制上の評価が非常に低い
    • それは各種の控除額などを加味すると、現実的に選択に値するようなもの
  • そのため、日本の賃貸住宅市場のオーナーは高齢の個人が多い
    • 法人は、相続税の節税メリットが存在しないため、個人と競争しづらい
  • そのため質が低いワンルームマンションばかりが増えて、ファミリー向けの品質の良い賃貸住宅が供給されない
    • オーナーは節税を主目的にしていて、品質の高いものを提供したいという意図も提供するためのノウハウもない
    • ワンルームが増えるのは、定期的に賃借人が入れ替わるため。平たく言えば、ライフステージの変化で勝手に出ていってくれる。
      • 長く安定して住んでくれたほうが良いんじゃないかと個人的に思っていたりしたが、借地借家法による借家人への保護などを鑑みると、定期的に入れ替わってくれたほうが良い、というロジック。

ぼくはそもそも持ち家ドリームみたいなものをさっぱり持ち合わせていなくて、自由気ままに賃貸暮らしをしたかった。しかしいま戸建てを買って住んでいる。これはなぜかといえばファミリー向けで良い賃貸住宅が少なく、購入市場で探したほうが圧倒的にマシだったからだ。

これを受け入れてしまった今現在だけど、おかしな話だ。良質な賃貸があるのなら、ぼくはそこに住んでいたかったというのに。

加えていうと、過去住んできた家は、たしかにそういう感じのワンルームあったなと思い出したりもしたし、逆に去年まで住んでいた家は法人が持っていて、そこそこきれいで行き届いていたのを思い出したりもした。

他で言うと、日本で既存住宅(中古)の取引が少ないことについて。

政府は既存住宅(中古住宅のことです)の流通を活性化するための取り組みを、急速に進めようとしています。図表 11‐ 1には、全住宅流通量を既存住宅流通と新築住宅着工に分けたものが示されています。全住宅流通量に占める既存住宅の比率をみると、日本が 14. 5%であるのに対して欧米主要国のそれは 70 ~ 90%に上っています。

個人的には、京都市内という、全国的にみればどちらかといえば都市部に住んでいて、去年の引っ越しでも見たのはほとんど中古マンションだったのであまりピンとこなかったが、たしかに家探しに置いて、中古の戸建てはさっぱり目に入らなかった。

これについては情報の非対称性による逆選択とアンカリング効果の2つの説明があった。

逆選択は、住宅の品質について買い手が情報を得られないことで、質の高い住宅の取引が成立しないこと。これは、それはそうでしょとは思ったが、各国の是正政策を見ると、たしかに課題だなとは思う。

アメリカだと買い手側がローンを組むためにインスペクション(調査)をすることが一般的になっていて、これがよく働いていそうであるとか。一方、イギリスだと売り手に情報提供を義務付けるHome Information Pack法が2007年に成立したが、売り手の負担が増えてマイナスに働いて、2010年に廃止になるなんてこともあった。

これから日本が、場合によっては住んでいる地域がどういう政策を取るのかということでこれは変わってくる。

もう一つのアンカリングは、日本においては20-25年経つと、住宅価値は無価値であるというアンカーに引きづられて取引が行われること。実際にはちゃんとメンテナンスをすればそんなことはないものだが、税制上の住宅価値評価などもこういった評価をやるものだから、市場としてはそのような評価になってしまうし、住んでいる人間もそのぐらいで住み潰すような誘導になるということ。

これは嫌な話だなと思う。仕事でプロダクト開発をしていても、メンテナンスの重要性みたいなものは常日頃身にしみている。家に住んでいても、2-3ヶ月おきに浴室の防カビくん煙剤をやる、たまに駐車場脇の草をむしるみたいな小さなことから、5年ぐらい経つとシロアリの防蟻処理の更新がいるとか、10-20年単位だと、屋根や外壁にメンテナンスがいるので数百万単位の出費を計画しておくとかを考えている。

そうやってメンテナンスをちゃんとして30年住んだとして、何らかの事情で家を売却したっくなったときに、「築30年なんで家の価値はないですね」とか言われた日には、「は????????」としかならないように思う。これは現実的にありえる話なのでたまに考えている。

そういえばそもそもの空き家の話だが、これについては個人レベルで示唆に富む話は得られなかった。それはそうで、別に空き家が1件あることがわるいものでもない。ただの流動性だ。本の中には空き家やコンパクトシティの話もあるのだが、これらはどちらかというと個人というよりは政策の話なので、特に地方選挙のときに候補者の政策とかと照らして知識補強するのが良さそうだ。

全体として、高かったがそれに見合うぐらいは面白かった。経済学の本なので、用語がけっこう出てくるが、特に前提知識として求められてくるわけではなくて、いちいち解説してくれる。ぼくは経済学部経済学科出身なので、夜中にウィスキー飲みながらでも気楽に読むことができた。真面目に数式とか図表の読み解きをやろうとしてるとノート片手にやらないといけないのだろうが、一応出てくるひとしきりの概念はわかるので、雰囲気で読んでいてもロジックはわかる。流し読みができるってのはありがたいことだなと思う。